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夕日を眺めて

TABアプリで、いくつか美術展をピックアップ。
銀座のエルメス、新宿伊勢丹、ワタリウム美術館、森美術館。
赤坂駅から一番近いヒルズへ、ちいばすで向かった。
日枝神社の横断歩道はスーツ姿のビジネスマンで、Bizタワー付近はSMAPファンで溢れ返っていた。

森美術館の小谷元彦展へ。
学生時代からずっと好きだったアーティストだけど、作品コンセプトは触れないようにしていた。
けれど、もう大丈夫だと思い、音声ガイドでじっくり聞いた。

「ファントム・リム」「ロンパース」「ナインスルーム」。
少女時代の失われた感覚、性への衝動と狂気、そして甘美な死への恐怖。
「ホロウ」の展示空間では背筋に寒気をおぼえた。
真っ白な世界に浮かぶ、聖女のような2人の少女。
水面に映る自分の姿と見つめ合うように、そして寄り添って鑑賞者を眺めるように。
かぎりなくエロティックかつサディスティックだ。

「ナインスルーム」で体験する、あの戦慄。
恐ろしくて足がすくむのに恐怖の美しさに取り憑かれ、奈落の底を見つめてしまう。
狂気と美しさは表裏一体。
恐怖で体が強ばる一方、このまま奈落に落ち続ければいいのに、と思った。
甘やかなスリル。

卒業制作は、このナインスルームからヒントを得た。
私は水面に映る波紋に、自分の経験を投影した。

触れれば水の冷たさを感じることができるのに、水面に映る像は掴むことができない。
どんなに距離を縮めても、どんなに触れ方を変えても、結果は同じ。
まるで人の心のように、はかなく、その姿は移り変わってしまう。
ならば像を自分の意志でコントロールできたら、哀しさを癒すことができるのではないのか...

もう8年も前になるのに、記憶が鮮明に蘇ってくるのが不思議。


あの時は死ぬまで逃れられないと思っていた。
だから、苦しさや哀しさを作品に吐き出すことしかできなかった。
それが年末の出来事で、突然消え去った。
私は存在しない恐怖と20年以上も戦っていたんだと、やっと気付けた。
もうぶつける必要はない。


展示を見終わって、スカイビューでジェラートを食べた。
家族連れ、お一人さま、カップル。それぞれ笑顔で夕日を見つめている。

やっと私は自分に戻れる。

夕日がきれいだった。
夕日を眺めて_e0100410_22152970.jpg

by kiyoko_okubo2 | 2011-01-04 21:48
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